ARTISTS MEET AOMORI Project(通称AMAプロ)

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第5回 2006/03/05 高嶺 格さん

 たくさんの人々に支えられ、アーティスト・ミーツ・あおもり・プロジェクト
はとうとう5回目を数えるまでになりました。当初、アーティストに次のアーテ
ィストの人選を委託してしまうのはどうか?と言う意見もありました。まったく
見ず知らずの人へとつながっていっては回を重ねていくうちに本来の趣旨とかけ
離れたイベントになってしまいはしないか?と。でも、それはまったくの杞憂に
過ぎませんでした。アーティストの皆さんは私たちの意をしっかりと汲んでくだ
さり、それどころか私たちの考える以上に先々のことまで考えていただいて自身
の幅広い人脈の中から素晴らしい人選をしていただき、これまでご紹介していた
だいてきました。

 そんなすばらしいアーティストの輪が徐々に丸みを帯び始めてきた、節目とな
る今回第5回目のアーティストは、第4回ゲストの砂山典子さんからのご紹介で
した。本当にこの方の来青を僕たちは心待ちにしておりました!実は今までのア
ーティストの方からも何度かこの方へとつないで行きたいと内々の相談があり是
非とも!と思っていたのですがどうしてもアーティスト本人のスケジュールが合
わなくて立ち消えになった経緯がありました。そう、僕たちが待ち望んでいたそ
の方とは「God bless America」、《鹿児島 エスペラント》など発表される作品
は常に大きな話題となり、今や日本を代表するコンテンポラリーアーティストの
一人として世界的にも知られているあの高嶺格(たかみね ただす)さんです。

 僕は、空港に迎えに行ったのですが、ただでさえ「あの高嶺さんが来る!」と
言うことでめちゃくちゃ緊張しており、高嶺さんの今までの作品から伝わる強烈
なアイロニーやタブーへの果敢な挑戦の姿勢からか先入観として「うかつに触れ
ばケガするぜ」な感じの方かと思っていたのでもう到着ロビーで待っている間中
胃がキリキリ痛んでいました。あまりのプレッシャーに耐えられず、同行してい
た小野さんを残し近くの売店で気晴らしにお菓子でも買おうかと物色していたと
ころ、ロビーの玄関前にロングコートに黒縁メガネの華奢ながらも言い知れぬ
オーラを放って立ちすくんでいる方が。「あぁ高嶺さんだ、高嶺さんにちがいな
い」とえらい心拍数で頭はボーっとクラクラしながら、アホの坂田ばりの横歩き
でヨタヨタと近づいていったらば、ものすごく物腰の柔らかな感じの人で、少年
のようなつぶらな瞳で挨拶されて、フーッと一気に解き放たれた感じでした。実
際、いろいろなことに興味を持って目をキラキラさせて歩き回る高嶺さんと過ご
した4日間の間、僕たちメンバーはさらに彼のファンになってしまったことは言
うまでもありません。



 さて、イベント当日、全体的な流れは話し合ったものの具体的な中身について
はリハーサルの余裕がないまま本番を迎えました。僕は僕自身のポテンシャルに
不安を抱えながら、それ以上に、三月とは言えまだまだ肌寒く雪もうっすら残る
曇天の日でしたので、どのくらいの方が来てくださるのかと心配しておりまし
た。しかし、出足こそ少し鈍かったですが会場のコーヒー成幸さんには約40名
近くのお客さんが訪れていただき席はほぼ満席となりました。トークイベントは
学生時代の貴重な作品からほぼ時系列に作品の映像を高嶺さんの解説つきで鑑賞
していくという形で進んでいきました。前半はほんとのほんとに初期の作品で僕
自身も始めて聞くタイトルの作品ばかりでしたが、コーヒーブレークの後から始
めた作品解説の方は高嶺さんの代表的な作品の解説となりました。

 中でも高嶺さんの代表的な作品のひとつである「God bless America」と言う
映像作品を流した時、その映像の美しさと圧倒的な内容にからか客席からため息
が漏れ聞こえてきたのが印象的でした。実は僕自身もこの作品はカタログや雑誌
などの写真でしか観たことがなく映像作品として観るのは初めてでした。壁も床
もすべて真っ赤な部屋の真ん中に2メートル近くの巨大な粘土のかたまりがあ
り、それがゴリラとも某米大統領ともつかない巨大な顔だけの立体物となり少し
ずつ顔のパーツを動かしてその巨大な顔が歌っているようにみせるクレイアニメ
の手法をとった作品です。その顔が歌っているのはアメリカの第2の国歌とも呼
ばれている愛唱歌「God bless America」。「9・11テロ」後のアメリカ国内
で、盛んに歌われる様子が世界中にTVで報道され、米国内がパトリオティシズ
ム(愛国主義)に染まっている様子を印象づけたあの歌です。作品中で妙に甲高
い声で歌う巨大な粘土の弛緩したゴリラ顔の立体物のノー天気な可笑しさと独善
的なその姿に、語らずとも聞こえてくる覇権主義国家の傲慢さへの高嶺さんがぶ
つけたアイロニーが映像を通してきっとお客さんに伝わったことでしょう。

 そして、かつてとある美術館で展示を拒否されるという事件がおき、大きな物
議を醸し出した作品として記憶のある方も多い作品「木村さん」には、来られた
お客さんが皆一様に大きなショックを受けていました。
僕自身もこの作品をよもや映像としてみることは出来ないものであろうと思って
いました。

 作品の内容はご存知の方も多いかと思いますが、高嶺さんの友人である障害者
で自身もパフォーマーでいらっしゃる木村さんの自慰幇助をする高嶺さんの姿を
撮影した作品です。非常にナイーブでやもすれば露悪的な意味に捉えられて嫌悪
される可能性の高い作品でしたが、もちろん高嶺さんの意図はそこにあるもので
はなく高嶺さんと木村さんの友情と信頼関係、そしてこの映像を作品として世に
問う理由をしっかりと理解いただいたお客さんはみなこの貴重な作品を拝見でき
る幸運を喜び、そして観終わった後は高嶺さんから突きつけられた大きな問いに
挑むかのような顔をされて考えておられました。

 そして一番最後に、高嶺さん自身の奥さんとの結婚をテーマにした「在日の恋
人」と言う映像作品を鑑賞いたしました。作品は「在日韓国人」であるパートナ
ーのアイデンティティーへの高嶺さん自身の真摯な回答と言った内容で、今まで
の非常に強烈なメッセージ性と衝撃的な映像とは一線を画した作品でした。結婚
式と言う自身のプライベートな映像の中で対比される人種、性別、民族、文化。
そしてそれがたおやかに融合していく様を暖かい眼差しの映像で綴られた作品は
僕たちに非常に気持ちの良い余韻を残して終了いたしました。

 後にこのイベントに参加してくださった方からこんな感想をいただきました。
「あんなに強烈に印象に残る現代アートの作品を観たことがない。何度も頭の中
で蘇ってきては考えた。そうしているうちにいろいろな解釈が生まれてきた。
あぁ、こんな風に現代美術は楽しめばいいのだと解った気がした」と。

 そうして、イベントは終了しなんだかとっても充実した気分のまま夜の宴会
へ。高嶺さんを囲んでのメンバーとの宴会は深夜まで及びました。お酒に弱いた
めあまり酒宴には長いのできない僕もこの日ばかりは僕にしては随分と夜更けま
で一緒に呑んでいました。

 そして、次の日は高嶺さんもフリーと言うことで青森市内観光。先ずは当会の
代表である日沼禎子が勤務するACAC(国際芸術センター青森)へ。
ちょうどレジデンスで滞在していた韓国人アーティストと中国系米国人アーティ
ストのユニット「チャン・ヨンヘ重工業」の作品を鑑賞。なんとこのチャン・ヨン
ヘ重工業と高嶺さんはベネツィア・ビエンナーレにて同じエリアで出展していた
と言う繋がりが。ただあまりに大きい展覧会のためお互いにそのときには面識が
なかったとのこと。その二人も一緒に乗せてこの日一日のんびり青森観光いたし
ました。ねぶたの里→まだオープン前の青森県立美術館→酸ヶ湯温泉と青森市内を
グルグルと連れまわしました。現在のところ、AMAproにゲストで来ていただ
いたアーティストの皆さんには全員酸ヶ湯にはお連れしており、あの強烈な硫黄
の混浴風呂に浸かってもらっているのでこれからもゲストアーティストは酸ヶ湯
に案内し強烈な硫黄泉の洗礼を受けてもらって青森の旅の記念にしていってもら
うようアテンドしていこうと思っています。

 高嶺さんの人柄にグッときてしまった当メンバーたちは高嶺さんが青森を発つ
直前まで青森観光に連れまわし最後の別れを惜しんでおりました。僕たちにとっ
て高嶺さんと出会えた経験はとても大きなものでした。本当にありがとうござい
ました。またお会いできる日を心よりお待ち申しております。

(中川)




高嶺格(たかみね ただす)

 1968年、鹿児島県生まれ。京都市立芸術大学を卒業後、1993年から
97年にかけてダム・タイプに参加。以降、映像作品やインスタレーション等
さまざまな表現活動を世界各地で行っている。

 

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